一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

キネマ旬報ベストテン鑑賞レビュー 「あの子を探して」「嗚呼!花の応援団」

★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★・・・おススメ。
このコラムではこれ以下はありません。

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。

『あの子を探して』


2000年外国映画3位、中国映画、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、106分 カラー
監督=張芸謀(チャン・イーモウ)、脚本=施祥生(シー・シアンション)、撮影=侯咏(ホウ・ヨン)
出演=魏敏芝(ウェイ・ミンジ)、高恩満(カオ・エンマン)、張慧科(チャン・ホエクー)、 田正達(チャン・ジェンダ)

1999年ヴェネツィア国際映画祭グランプリ受賞作品。

(ストーリー)
舞台は中国の農村。水泉小学校のカオ先生が母親の看病のため、一ヶ月間、小学校を離れることになった。代理として村長に連れてこられたのは、13歳の少女、ウェイ・ミンジ。

中学校も出ていないミンジに、面接したカオ先生は心許なさを感じるが、子供たちに黒板を書き写させるだけの簡単なことならできるだろうと代理を任せる。報酬は50元。子供を一人も脱落させなければさらに10元。

ミンジは、生徒に自習させて教室の外で座っているだけの「授業」を始めるが、うまくいくはずもなく、次々と騒ぎが起こる。 特に生徒のホエクーは、隙を見て抜け出そうとしたり、女の子の日記を盗んで騒いだりといつもミンジを困らせていた。

そんなある日、そのホエクーが突然学校にこなくなった。病気になった親の代わりに、町に出稼ぎに行ったという。 脱落者を出すと報酬が減ってしまうと考えたミンジは、何とか連れ戻そうと策を巡らせる。

(鑑賞)
最後にネタばれあります。ご注意ください。

今回はちょっと長いので、写真なんかも挿入します。

1987年のデビューから1998年までは、政治色の濃い作品や時代背景に翻弄される人物を描いてきて、中国の映画監督として第一人者になった感のあったチャン・イーモウ監督が、素朴で貧しい田舎の心象風景をつづった本作と「初恋のきた道」「至福のとき」の「幸せ三部作」の1本目です。
全員素人役者なんでしょうか?役名と本名が同じなんですよ。ひょっとしたら、テレビ局長や、アナウンサー役の女性は本職の俳優さんなのかもしれません。

とにかく素朴です。都会と田舎の格差を云々する映画ではありません。貧乏な村なんですが、素朴なんです。代用教員に13歳の中学もろくに出ていない少女という設定から始まるところは驚きましたね。学問を教える大人がいなくて、それでも国の施策としては、学問を義務付けるの時代なんでしょうね。カオ先生が母親の看病のため1ヶ月不在する間に「生徒数を減らさないこと、勉強は教科書を写させるだけでいい」というのもそういう時代背景を死している感じがします。


素人の子供たちが主演、出演ですから、演技なのか地なのかわからないようなテンポで映画は進みます。小さい描写の中に、中国のその頃を垣間見られます。
村長や先生は偉い、という儒教的教育、思想。チョーク1本も無駄にできない貧しさ。町へ出るバス代稼ぎのときのみんなの団結と、バス代が計算違いだったときの落胆、小学3年生が出稼ぎに出なければならない世相。

淡々としたつづり方なので、ドキュメンタリーのような感覚を覚えてしまいますが、このスタイルが監督チャン・イーモウのしばらくのスタイルになります。

街へ出稼ぎに来たものの迷ってしまって、行く先も寝るところも食べるものもないホエクー。食堂で人のいいおばさんに食べ物を恵んでもらって何とか食いつないでいます。

苦労の末、村から歩いて都会まで出てきてミンジは、13歳の知恵と残るお金を駆使してなんとかホエクーを探そうと試みます。尋ね人の張り紙を書くために筆と墨汁を買い全財産はなくなります。徹夜で駅の待合室で書いたものを「そんなの張っても無駄だ」とあっさり、見知らぬ男から言い放たれます。そこで食い下がるのがミンジのすごいところ。「じゃどうしたらいいの?」「テレビ局へ行ってみたら?」という無責任な言葉に、純真なミンジは信じ込み、3日間もテレビ局の入り口で、局長と出会えるのを待ちます。食料なし、寝どころなしで。

騒がしさのあまり、局長が見つけ、声をかけてくれます。
尋ね人コーナーだと放映料がかかるので、局長は「田舎の学校から子どもの先生が出稼ぎに来た生徒を探しに来た」というニュースにしてくれます。ここにも立場の高いものの良心というより、点数稼ぎの偽善性とニュース性を作るという打算も見え隠れします。
ついにテレビに出られ、ホエクーのことを訴えるチャンスが訪れますが、全然うまくいえません。泣きながら、「ホエクー、どこにいるの?」と泣き叫ぶので精一杯です。

ホエクーがご飯をもらっていた食堂のおばさんがテレビを見ていて、「これあんたのことを探しているんじゃないの?」で、ふたりは出会えます。

それからテレビ局の取材シーンで終わりのシーンを迎えます。
テレビ局の点数稼ぎ的なシーンはあまり強調しませんが、はっきり見られます。村長もそういう偽善的態度です。
でも映画のラストシーンでの、全国の寄付で集まったチョークで黒板に生徒が一文字ずつ書くシーンに、ホエクーだけ、「3文字書いていい?」と聴きます。
そして書いた文字は「魏老師」(=ウェイ先生)だったのです。 
ネタばれでごめんなさい。  ★★★★



『嗚呼!花の応援団』


1976年日本映画第7位、日活作品 99分
監督=曽根中生、原作=どおくまん、脚本=田中陽造
出演=今井均、香田修、深見博、安部徹、宮下順子、水原ゆう紀、伊佐山ひろ子、竜虎

(ストーリー)
応援団の規律はとても厳しい。応援団では俗に一回生はゴミ、二回生は奴隷、
三回生は人間そして四回生は神様と言われ、たった一学年違うだけで雲泥の差がある。
そんな南河内大学応援団の親衛隊に新たに加わった富山と北口。
応援団の命である大団旗を虫干ししている最中にタバコで焦がして穴を開けてしまった。
そのため、隊長である青田赤道は腹を切って詫びを入れるはめになったが、
到底死にきれる訳がない。

そこで、一計を案じ、紛争中の浪華大応援団を相方に、大団旗をおっ立てての大乱闘の末、
青田の凄まじい活躍で勝利を収め、その落とし前として、その乱闘で破れたことにして、
大団旗を新調させる・・・。

(鑑賞)
僕が大学生のころ、漫画アクションで大ヒットした
どおくまんプロ(4人の合作組織らしい)の連載漫画の映画化です。

漫画の絵はへたくそでしたが、その下手な絵を逆手にとって、下品なギャグを満載し
主人公・青田赤道の無軌道な超人的活躍を不思議ではないように見せるのだから
たいしたものなんです。

下品なのに面白く、下手なのに楽しく、ハチャメチャなのに、ほろっとくる。
そんな漫画でした。

今回見返してみて、「ええ映画やんか」と思って、記録を調べるとその年のキネ旬7位という快挙。
「博多っ子純情」(1978年10位)でも示した、監督・曽根中生さんの

長編漫画の映画化の腕は見事なものです。

「博多っ子純情」では、原作の主人公六平の甘酸っぱい青春を見事に描き出し、
本作でも、ありえない主人公を人間として描きつつも、原作の軌道を逸したギャグは
忘れずという手腕です。

これには、脇役の使い方と、マドンナ的女性の使い方の巧妙さが特徴として寄与しています。
原作の面白いエピソードをうまくつなぎ、原作ファンの期待も担いつつ、作品として立派に
仕上げてしまう職人技に改めて敬意を表します。 ★★★★