一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

手塚治虫を読む その9「ザ・クレーター」

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手塚治虫さんの得意な短編連作ものです 

この連載も、やっと9回目。
100作品まではまだまだ先ですが、気長にやっていきます。
今回は、「少年チャンピオン」に連載された「ザ・クレーター」を取り上げます。 

まだ週刊誌化される前の、少年チャンピオンの目玉作品でした。
1回30ページの短編で、いろんなジャンルに取り組んでいます。
丁度このころ青年誌「プレイコミック」に「空気の底」を連載していたのですが、
「ザ・クレーター」が少年ものなら、「空気の底」は成年ものの、オムニバスなマンガでした。

全17話で、構成されていますが、「ザ・クレーター」と関係しているのは最終話「クレーターの男」だけというのも、最終話が「空気の底に」で終わる「空気の底」と似通っています。

さて、作品です。

                           


第2話の「八角形の館」のカラーページです。
この斬新なコマ割りを見てください。

アニメで損失して虫プロが倒産してしまったばかりの、「マンガで生きるんだ」という意気込みが紙面に表出していますね。

不条理なタイムスリップ。
戦争と化学兵器、いろんなテーマが出てきます。

当時僕は中1生。ショッキングな内容に、毎回震撼していました。

中世からの、巴ご前の呪いの面が現代に残り、漫画家・手塚治虫に乗り移るシーン。
手塚治虫本人が、何回も出てくる作品であります。

吹雪で飛ばされそうになるシーンの、迫力よりもユーモラスさも忘れません。
半分ぐらいの話の主人公は、オクチンこと奥野隆一です。

主人公の名前は一緒でも、役柄・設定は全然別というスターシステムを使っています。
これぞ、漫画版オムニバスです。

亡くなった女の子が、天国の受け入れ準備が出来ていないからと、
カラダを貸したオクチンが、トイレに入るシーンです。

半日ごとに、オクチンと女の子が体を支配するという設定が面白かったです。
なんかの映画からヒントを得ていますね。

僕が一番好きだったのが、この「生けにえ」という作品。
2000年前のメキシコで「生けにえ」になって殺される直前の女性の願いが叶い、現代の日本にタイムスリップして、オクチンと恋愛して結婚して、子供ができた10年後に約束の期限が来て、幸せの絶頂に、元に戻って、首を切り落とされます。

残酷なシーンですが、それより10年間の幸せをかみしめられます。
手塚治虫さんらしい作品のひとつです。

            


この「三人の侵略者」も面白い作品で、宇宙から地球を偵察に来た宇宙人が地球人に化けて、偵察しようとしますが、慣れない文化とのギャップで笑わせ、警察の包囲網が迫ってきた時、実は人質に取っていた彼らが実は、逃亡者だったという下りです。

最終話の「クレーターの男」は、
この前年のアポロの月面着陸が大きなきっかけになっている作品です。

描写の正確さは、アポロが撮ってきた写真から思い切りヒントを得ています。
少年漫画だけど、救いようのない不条理に果敢にチャレンジした作品です。
この絵には惚れ惚れした記憶が鮮明に残っています。