一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

ブックレビュー 「ルーズヴェルト・ゲーム」「麗しき花実」「夢で逢いましょう」


今までのブログ「一語一映」は、⇒ こちらです。


『ルーズヴェルト・ゲーム』


タイトルの由来は、ベースポールのゲームは「8対7が一番面白い」と
ルーズヴェベルト大統領が言ったという故事に由来しているものです。

「半沢直樹」の原作で、今をときめく作家、池井戸潤さんの原作です。
4月から連続ドラマで映像化されるようです。

青島製作所は、野球部を持つ、メーカーです。
チームの監督と4番が同じ業種の野球部に引き抜かれ、チームは弱体化、
そこに、会社の業績低下から来る、野球部廃部問題・・・

その揺れ動くさまが、スリリングに逆転また逆転で動いていくさまが
ルーズヴェルト・ゲームのよう、という意味から取られたタイトルでしょう。

登場人物が多いので、一人ひとりの描写の仕方には幾ばくかの不満が残るものの
面白さは、太鼓判。テレビの配役も見て、ぜひ見たいと思ったものです。

テレビ・ドラマ化にあわせて、文庫本になりました。


『麗しき花実』


今生きる作家の中で、僕が知る限り(ですからたいした範囲ではないのですが)
文章が一番キレイな日本語であると思う、乙川優三郎さんの作品です。

原羊遊斎の下で蒔絵師として働く出雲から出てきて江戸で修行する理野。
この理野の目を通して、実在の人物である原や絵師の酒井抱一を軸に江戸後期の市井が描かれる。

漆器に描く女絵師の物語です。
流麗な文章の中で描かれる江戸時代の手作りの芸術のことが読んでいるうちに分かり
知らない漢字や言葉までも、消化して、あの時代の職人がどれだけの精魂を作品に
向けて傾けたのかが、恐ろしいほどの情熱で分かる筆致の文章の素晴らしさ。
なんども読みたいフレーズがたくさんあります。

印象的なのは、胡蝶という人物でした。
芸事一般にも秀で、愛する心を芸に秘め、一人暮らしを楽しむさまは、
こういう生き方もこの時代にはあったんだろうなぁという、絵が描けるんです。


新聞小説での連載時の挿絵が、巨匠・中一弥さん。
98歳現役の挿絵師です。
単行本化するときに、この絵が入っていることを期待しましたが、叶いませんでした。
それだけが、残念でなりません。


『夢で逢いましょう』


今回の作品3作は全員、直木賞作家のものですね。
これは「愛の領分」で直木賞を獲った、藤田宜永さんの週刊誌連載小説です。

近頃の藤田作品には、団塊小説という趣があり、
その少し下の僕たちがあこがれた、アイテムや流行が1章のテーマになって展開される
ちょっとだけスリリングな、一応ミステリーです。

「お笑い三人組」「MG5とバイタリス」「缶ピース」「ゲバゲバ90分」「街頭詩人」
「グループサウンズ」「新宿騒乱事件」「ジェットストリーム」そして「夢で逢いましょう」……。
“あの頃”の空気が現代によみがえる3人の定年男の冒険とロマンです。

ミステリーは、実はちょっとだけ。
その落ちも、いまひとつで、鍵を握るオウムの名前がオードリーというのだけが
印象に残りました。

毎週は面白いのに、全体を通すと、残念ながら外れちゃいましたね。