一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

手塚治虫を読む その4「火の鳥・未来編」レビュー

 

火の鳥 2・未来編

火の鳥 2・未来編

 

 火の鳥 (漫画) - Wikipediaより。 

初出:『COM』(1967年12月号 - 1968年9月号)
西暦3404年。時間軸で考えた場合の火の鳥の結末にあたる作品。
地球は滅亡の淵にあり、地上に人間はおろか生物は殆ど住めなくなっていた。
人類は世界の5箇所に作った地下都市“永遠の都”ことメガロポリスで
超巨大コンピュータに自らの支配を委ねた。

メガロポリス「ヤマト」と「レングード」の対立に端を発した核戦争勃発で、
地球上のあらゆる生物が死に絶える。
独り生き残った山之辺マサトは火の鳥に地球復活の命を受ける。
マサトは永い孤独と試行錯誤の中で、結局、生命の進化を見守るほかないことを悟る。

肉体が滅び意識体となったマサトは、原始生命から、
再び人類が文明を生み出すまで、生命の悠久の歴史を見守り続ける。

結末が黎明編へ繋がるような展開となっており、「火の鳥」全編の構成を示唆している。

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この画像は、最初にまとめられた時の「火の鳥・未来編」の表紙です。

最初に買ったのは、僕が中学生の時です。この本ではなく、
箱入りにパラフィン紙がかかった(以前は特別な本には、パラフィン紙をかけてあったのです)本でした。
当時780円は、僕の1か月の小遣いをほとんど使わなければならない額で、先行した「黎明編」と2冊を買ったら、1か月半分のお小遣いが消えたという「絶対欲しかった本」だったのです。

 

発行し続けられる「火の鳥」シリーズ 

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「火の鳥」シリーズは、きっと上製本、文庫版、全集版、コンビニ本版、
そして、このシリーズの復刻版と、最低でも5タイプの本を揃えていますが、
部分的にはもっとあるかもしれません。


Wikipediaにストーリーがありましたが、この2作目「未来編」がきっと長編の中では
一番人気がないのではないのでは?と思うのです。

なぜか、哲学的であり、輪廻転生の物語になっており、「未来編」の3034年の物語のラストが
3世紀の倭の国の「黎明編」に続くという不条理的わかりにくさ、からです。

つまり「火の鳥」終わりの物語であり、始まりの物語なのです。

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ファーストシーンは、ハワイの海で恋人と遊ぶマサトの情景です。
これは、タマミというムーピーが映し出している幻想だとわかります。

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地球は、地上に棲めなくなり、地下で5つの国がコンピュータの支配のもとで
ルールを作り、生き延びています。
ロックは、その長官役で、ムービー遊びをしているマサトを叱責します。 

狂言回し・猿田博士登場 

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地上では、「火の鳥」の狂言回しである猿田博士が、地上のカプセルの中で
動物たちと暮らしており、火の鳥と話をしています。

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ヤマトの国のコンピュータ・ハレルヤは、他国との戦争を決定し、長官ロックに命令します。

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地上で戦争を知った猿田博士は、「核戦争で地下に逃げ込んで生き延びたのに
また、核戦争を地下でするのか」と嘆き苦しみますが、歴史は繰り返されます。 

遠大なテーマ「永遠の生命」 

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火の鳥から、人間が消えた地上に、人類が甦るまで見届けるようという命を授かったマサトは不死の体で、生きながらえながら、滅亡から誕生まで壮大なドラマを見て行きます。

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老人(何千歳、何万歳)になっても、生き続けなければなりません。

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三十億年も生きて、「神」と呼ばれるまでになってしまいます。
肉体も滅び、生命体としての存在だけになってしまうのです。

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そして、2作目のラスト近くにして、「火の鳥」シリーズのテーマが明かされます。
「火の鳥」の正体は、火の鳥の中に入って地球を見守ることになったマサトの魂の物語だったのです。

こうして、火の鳥は過去と未来を行き来しつつ、段々と現在に近づいていく壮大な物語として大河ドラマのような、流れを作り始めるのです。

2作目にしての、この構想。
凄いとしか、言いようがありません。 

そして「黎明編」に戻る・・・ 

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「黎明編」の有名な火の鳥狩りのシーンに戻ってしまいます。

 

「火の鳥」を発行順に並べると、
太古、超未来、大和時代、創造のできる未来、奈良平安時代、近未来、鎌倉時代・・・という風に、今から遠い順に過去、未来、過去、未来と交互に繰り返しながら、現代近づいてきていることがわかります。あと手塚先生に10年の命を与えてくださったら、この一大絵巻はもっと素晴らしい類を見ない一大抒情詩になったことでしょう。

 

僕は読むたびに思うのですが、この作品の少し前に、
あの至高のSF映画「2001年宇宙の旅」の美術監督をキューブリックに依頼されながら仕事の多忙とアニメの借金の為、ハリウッド行がならなかった手塚さんの「悔しい気持ち」が作品に随所に表れているのを、見て取るのが痛々しく思えてなりません。