一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

昭和の映画レビュー 「小さな恋のメロディ」「でんきくらげ」「男はつらいよ望郷篇」

★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★・・・一見の価値あり
★★・・・悪くはないけれど・・ 
★・・・私は薦めない 
☆・・・おまけ

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。

『小さな恋のメロディ』


1971年製作といえば、もう44年前の作品ですが今見ても古びていません。
11歳のダニエル(マーク・レスター)とメロディ(映画のタイトルも「メロディ」なのです。
トレイシー・ハイド)の純愛ものであり、大人社会への反抗をコミカルに描いた作品です。

ビー・ジーズの音楽に乗って大ヒットというのは、のちの「サタデーナイト・フィーバー」
と一緒で製作された本国(本作はイギリス、「サタデーナイト・・・」はアメリカ)では、
さほど評価されなかったのに、日本では大当たりした映画です。

マーク・レスターは、この後に東宝に招かれて「卒業旅行」なんていう映画に主演していますし、
トレイシー・ハイドも「スクリーン」誌の人気女優でいっとき上位になった記憶があります。

今見直してみると、映画の半分ぐらいは二人の家族の生活模様をきっちりと描いているんです。
裕福な家庭で育っているものの、親の興味は成績といい子にしているかどうかだけなダニエルの両親。
貧しくも美しくとはいかず、生活が苦しいメロディの家庭、そしてオーンショー(ジャック・ワイルド)の家などは、家事のすべてを小学生がしなくてはならない家庭なのです。
子どもたちにはストレスのたまるイギリスのこの暮らしの上に、学校の勉強も面白くないわ、
先生は厳しいだけだしと、閉塞感が漂う前半には改めて驚きます。

甘ったるい11歳の恋愛ものだけではなかったのです。
でもその中の日々にみずみずしさを与えるのが、金魚であり、爆弾製作であり、些細な悪さの積み重ねなのです。それにかぶさるビー・ジーズの10曲のメロディのすばらしさですね。きっと日本人の感性にピッタリ来たのでしょうね?大ヒットをしました。

伝統的なイギリスの大人社会は、これからの時代の子供には受け入れられないんでよ、という警告にも見えるコメディタッチの映画は肩がこらず、大上段に振りかぶった主張がないだけ素直に映画に入っていけます。

 「僕たち結婚したいんです」
 「け、結婚?けっこんってどんなものか知っているのか?」
 「好きなんです、一緒に居たいんです、だから結婚したい、それがいけないの?」
すこし薄っぺらなこの部分が名作として評価されなかった部分なのでしょうね。
でも脚本のアラン・パーカーはこの後、監督としてたくさんの名作を作ります。

現在、マーク・レスターはロンドンで整体師をしており、
トレイシー・ハイドは映画界を引退して、ママとして普通に生活しているそうです。

トロッコで地平線の果てまで漕いで行った行く先は、
案外普通に平凡な大人の世界にたどり着いたのでしょうか…?★★★★


『でんきくらげ』


一連の監督・増村保造さん+主演・若尾文子さんの映画を見ているうちに
ちょっと寄り道して見たみた作品です。1970年の作品です。
タイトルが刺激的ですし、主演・渥美マリさんと来たら、
妄想を刺激されさせるを得ませんでしたが初めて映画でみた渥美マリさんは、
思っていたよりずっと魅力的な女性だったのに驚きました。

渥美マリ主演の「軟体動物シリーズ」第3作目にあたる本作は、エロチック版成り上がりストーリーです。
※「軟体動物シリーズ」とは、渥美マリさん主演の映画で1969〜1970に6作作られました。
「いそぎくちゃく」から「しびれくらげ」まで。本作が3作目です。

洋裁学校に通う19歳の娘・渥美マリが、水商売の母親の情夫を娘を手篭めにしたことで
逆上して殺害したところから始まる渥美マリの転落物語、かと思っていたら逆にその流転を
ひとつひとつ利用して、金と地位をものにしていくというなりあがり物語なのでありました。

男優陣もなかなか楽しく、 川津祐介、西村晃、玉川良一さんらが適役を好演しています。
特に西村晃に囲われてからは、展開が楽しく、西村晃が風呂で急死をしてしまった後の
遺産相続におけるしたたかな計画(籍は入ってなくても妊娠していれば相続権がある)などの
仕掛けを川津と組んで仕掛けるあたりは、なかなかの展開でした。 ★★★


『男はつらいよ・望郷篇』


1970年。「男はつらいよ」はもともとテレビから始まったシリーズで、監督・山田洋次さん、
主演・渥美清さんはそのままで、テレビでは沖縄に仕事で行っているときにハブに
咬まれて死んでしまうというラストに視聴者から猛反発があって、映画シリーズとして
復活した寅さんが、大当たりしてシリーズ化してしまったといういわくつきの作品なんです。

本作は5作目で、1、2作目は山田洋次監督で、あまり人気が出たもので急遽3、4作目を
作るものの、そのころにはよくあった別の監督が撮るという作品が2作ありました。
それがやはりそれほどの出来ではなく、5作目で打ち切ろうと、テレビでさくらを演じた
長山藍子さんをマドンナに、ひろしを演じた井川比佐志さんをその恋人に据えるという
エンディングにふさわしいキャストで作ったら、それが大当たりしてついに、やめられない
シリーズ化になってしまうという思わぬ展開にという作品です。

山田監督が描く下町情緒が違うんですよね。
100分があっという間なんですわ、うそみたいに。
やはり落語なんですよね、寅さんは。

このあと、ずっと延々48作まで続く作品になろうとは、この時点では誰も予想していなかったでしょうねぇ。
キネマ旬報日本映画の8位にランクインしています。★★★★