手塚治虫を読む その8 「マコとルミとチィ」レビュー
自伝的というか、自家的という漫画です
昭和54年8月~56年10月号まで17回にわたって、「主婦の友」に連載された作品です。
手塚治虫さんの作品群の中に、自伝ものと言われるグループがありますが、それは基本的に、幼少期~戦後までのものであり、ほとんどが戦争抜きでは語れない物語です。
そういう意味では、この作品のようにほぼ事実を、それも手塚家の3人のこども=長男・眞=マコ、長女・るみ子=ルミ、次女・千以子=チィ、の育つ過程そのまんまを漫画にしたという珍品です。
先日読んだ「父・手塚治虫の素顔」に書いてあったことと、完全に一致するんですよ。
親からみた子供たちと、子供が認識している親とがこれだけ一致する事も珍しいんじゃないかと?
長男・マコが誕生するところから、物語は始まります。
このシーンだけ見たら、「火の鳥」や「ブラックジャック」のように生命の尊厳がテーマみたいな漫画になりそうですが、本作はも一話ごとに楽屋落ちがある「ドン・ドラキュラ」のようなタイプのコメディです。
お産を終えたばかりの、手塚さんの妻(初登場)の思い・・・
仕事に追われる漫画家の父親の父親になりきれない当分のイメージ、
とてもよくわかります。名シーンだと思います。
このあと、しばらくマコと両親のドタバタがあります。
いちいち、「あ、これも、あれもあったな」と思い出せるエピソードに手塚さんの観察力のすごさを感じます。
マコに妹が出来るシーンです。
これは、こども心を描いてみごとです。
その下に、また女の子が出来るシーンです。
ふたりの気持ちがよく描かれていると思います。
ドタバタと終わってしまったのは、もっと主婦の視点で描きたかったと、手塚治虫さんがあとがきに描いているように、男視点のドタバタ漫画になってしまったが故の打ち切りだと思うんです。そういう意味では前半と後半のテイストが違う失敗作と言えますが、前述のように、オトナになってからの私小説ならぬ、私漫画はこれ一作ですから、とても貴重であることには、異論の持ちようがありません。
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