手塚治虫を読む その7「一輝まんだら」レビュー
これぞ、未完の名作?
1974年9月から、1975年4月まで、半年間「漫画サンデー」で連載された、手塚治虫さんの実在の人物を描く大河ドラマモノの「未完の作品」です。
こう表紙だけ見ると、1巻なんてコメディみたいですが、れっきとした歴史大作なのです。タイトル「一輝まんだら」はきっと、全5~8巻ぐらいの構想で描き出されたものと思われます。
1900年の中国を舞台に物語は始まります。
義和団事件、欧米の中国支配が始まる中で、日本も清国最期の時期に侵略を考えていたころです。
主人公は、タイトルにもあるように、思想家・北一輝なのですが、
コメデイレリーフとして、この娘・姫三娘(き・さんじょう)が、歴史の中を生き抜くさまを描きつつ、それに実在の人物を絡ませて登場させていくという手法です。
晩年の「陽だまりの樹」「アドルフに告ぐ」でも、同様の手法で、実在の人物を描いています。そんな歴史大作になるはずの作品でした。
まず、ふとしたことから義和団に入り、頭領に惚れてしまいます。
ですから、清国政府が崩壊したときに、欧米諸国の追手を逃れるために三娘が命を賭して、大活躍します。
三娘は惚れやすいが、カラダを許してはいけない体質(男の裸を見ると、殺してしまうトラウマがある)なので、あちこちと、男の友達が出来てしまいます。
かなりコメディタッチで描いているシーンも多いのですが、
挙動不審で捕まえた、お巡りさんなんか、土佐の高知の出身なんです。
このページなんかは、当時の官憲の風刺というより、小市民が戦争に借り出されて意思に反して戦争に巻き込まれたことをコメディタッチで表しているように思えました。
土佐の高知の・・・というのは田舎ものの代表だったのかもしれません。
王太白という革命に燃える青年とも、「男の友情」で繋がってしまいます。
日本軍の将校とも、危機の中を抜け出し、恩義を受け、日本へ逃げる船に日本の子女の服装になって載せられますが、中国人を差別する日本人に怒り、すぐばれてしまいます。
動かしがたい波に逆らって革命に生きるか、体制に流されて生きるか、いつもこれは若者の、また人間の命題です。
そしてやっと、北一輝が登場するのが2巻目の37ページ。
全体では350ページめぐらいに当たります。
きっとこの「一輝まんだら」全5~8巻ぐらいな長編の構想で描いていたのでしょうねー。北一輝をとりまく、まんだらを描くというテーマの起承転結の起の部分ぐらいなんですよ、まだ。
一輝の人物像を定めて描く前に、半年が過ぎてしまったようです。
第一部完了のシーンですが、このあと「あとがき」に。
第二部では、日本の軍閥の跋扈と退廃、北青年の失意と上海での執筆活動、そして二・二六事件の青年将校の蜂起、という核心に移していきたいと思っています。どこかで連載をやらせてくれないでしょうか。
と書き残しています。
このあとを読みたい、とても好きな作品です。