一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

キネマ旬報ベストテン鑑賞レビュー 「望郷」「豚と軍艦」

★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★このコラムではこれ以下はありません。

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。


『望郷』


1939年度外国映画第1位、フランス映画、94分、モノクロ
監督=ジュリアン・デュヴィヴィエ、脚本=アンリ・ジャンソン、ロジェ・ダシェルベ
出演=ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、リーヌ・ノロ、リュカ・クリドゥ、ルネ・カール

(解説・ストーリー)
日本人好みのデュヴィヴィエの作品の中でもとりわけ支持されている“男の”メロドラマである。舞台はアルジェリアのカスバ。パリを逃れ潜伏するペペ・ル・モコ(ギャバン)は、懐かしの町の匂いを身に纏う女ギャビー(M・バラン)にぞっこんとなり、甘い逢瀬を重ねる。いよいよ女の去る日が来て、慎重な男であったのに、軽率にも彼女を追って波止場に現れ、警察に捕まる。そして、最早、女と再会の叶わぬのを悟り、自ら脇腹をナイフで突いて死ぬ。女との別れの間際“ギャビー”と叫ぶ声が船の汽笛にかき消える名場面は伝説化しているが、この時みせるギャバンの眼の表情の哀しさには演技を越えたものがある。刑事スリマンとの奇妙な友情、目をかけている少年ピエロなど脇の人物もよく描かれ、何より迷路のようなカスバの街がエキゾチックで素敵なのだ。

(鑑賞)
ラストシーンだけは、何度も名作ダイジェスト集で見ていましたが、全編を通して鑑賞したのは初めてでした。理由?一番は、ジャン・ギャバンの顔が苦手だったというところでしょうか(笑)?
冗談はさておき、この時代前後に作られたフランス映画が苦手なせいが一番なのかもしれません。
モノクロ・スタンダードは日本でもそうですから、全然問題ないのですが、世界一の映画とも言われる「天井桟敷の人々」も4年前まで見ていなかったわけですし、マルセル・カルネ、ジュリアン・デュビィビィエ、ジャン・ルノワール、ルネ、クレールと並ぶフランス映画のこの時代の巨匠の作品はほとんど手付かずなんです。

フランス映画独特の暗さが苦手だったんですよね。
フランス=華やかではなく、庶民を描いた映画やノワール的な映画は苦手でした。
濃いメイクに、陰影のきつい照明、しゃれた場面のはしょり方(実はこれが一番苦手なのかも)、
「僕がフランス映画いいね」になるのは、カラーの時代に入り、クロード・ルルーシュの「男と女」、
ジャック・ドゥミの「シェルブールの雨傘」、ルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」まで待たなければいけません。

改めて今回見てみて、見なかった理由が一つ一つ消されて行きました。
フランスって、かっこいい国というイメージですけど、映画で描かれるフランス人は
基本泥臭くかっこよくないんですよ。かっこよく感じられるまで僕は待てなかったんだとよく分かりました。つまりフランス映画に対する偶像だったんですね。これがフランス映画だと「望郷」は教えてくれました。

映画は人間の愛情と業を描くもの、そういう考えで行くと、この「望郷」は改めて名作です。
今まで見ていなかったのがもったいなかったと思います。
どうしてもゴダールだけは今でも苦手ですが、それ以外の古めのフランス映画も見てみます。
★★★★



『豚と軍艦』


1960年度日本映画第7位、日活作品、108分、モノクロ
監督=今村昌平、企画=大塚和、脚本=山内久、撮影=姫田真佐久、助監督=浦山桐郎
出演=長門裕之、吉村実子、三島雅夫、小沢昭一、丹波哲郎、山内明、加藤武、殿山泰司、西村晃、南田洋子

(ストーリー)
基地の町・横須賀に米軍の残飯を流用した養豚でひと儲けをたくらむやくざ組織があった。豚の飼育係を任され一時出世の夢を見たものの、内輪揉めに巻き込まれて自滅していくチンピラ男と、その恋人で、男たちに蹂躙されながらも自分の足で歩んでいく女。二人の生きざまを通して、戦後日本の現実を寓意的に描く。

(鑑賞)
これもモノクロの映画ですが、日本映画ですし、イマヘイさんの監督作品ですから、あふれるバイタリティに圧倒されて、脇役の皆さんもみんなが魅力的で、戦後日本の「勝てば善」という断面を面白く見せてくれた映画でした。
丹波哲郎さんなんか、自分を癌だと思い込んで投身自殺まで謀るやくざの役なんて頬が緩みっぱなしですよ。主演級の俳優さんたちが群像を組んで、地べたを這うような撮影に楽しんで出ているのがよく分かります。

なんといってもすごいのは、吉村実子さんの発掘です。
吉村麻理さんの妹なんですよね。
この作品と、もう1本今村監督の代表作「にっぽん昆虫記」でもすごい体当たり演技を見せてくれます。

今老境に差し掛かった俳優さんやなくなってしまった名優さんたちが、惜しげもなくちりばめられたこの作品には、イマヘイ映画にしか感じられない泥臭いバイタリティがあふれています。監督の影響というのはものすごいものですね。のちに「キューポラのある街」「青春の門」などで巨匠になる浦山桐郎監督が助監督としてクレジットされています。
ラストの豚の大暴走シーンでは、思い通り走らない豚たちを画面に見えないように隠れて操作していたらしいですね。イマヘイ監督の粘り勝ちな映画ですね。

このポスターはカラーですが映画はモノクロです。
ポスターに書いてある
「今までにない異常な純愛!度肝ぬく場面と笑いの連続!鬼才・今村昌平監督の型破りの問題作!!」
この惹句が全てを物語っていますね、すばらしい。

日活ヌーベル・バーグとでもいえそうなバイタリティに圧倒されました。★★★★