一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

キネマ旬報ベストテン鑑賞レビュー 「スラップ・ショット」「裸の島」

★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★・・・一見の価値あり
★★・・・悪くはないけれど・・ 
★・・・私は薦めない 
☆・・・おまけ

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。


【スラップ・ショット】


1977年外国映画6位 ユニバーサル映画 123分
監督=ジョージ・ロイ・ヒル、脚本=ナンシー・ダウド
出演=ポール・ニューマン、 マイケル・オントキーン、ジェニファー・ウォーレン、メリンダ・ディロン

(ストーリー)
全米プロ・アイスホッケーのマイナー・リーグのチャールズタウン・チーフスは最下位の三流選手のチーム。選手兼コーチのレジ(ポール・ニューマン)は頭がいたい。しかもスポンサーの鉄工場が不況で閉鎖するため、おさきまっくらだ。レジとネッド(マイケル・オントキーン)の2人はチームの解散を覚悟する。
レジーはチームを身売りするとオーナーから打ち明けられ、レジの私生活の方もうまくない。女房のフランシーヌ(ジェニファー・ウォーレン)とは別居中で、元どうりは不可能。さてネッドの方も女房リリー(リンゼイ・クルーズ)と別居中。
翌日の試合も負け。そして数日後の試合の時、レジは相手チームのゴールキーパーを汚いジョークでののしり、乱闘して勝利をものにする。その日をさかいに、チーフスのチームの売り物は暴力となった。なかでも新しく加入した3人兄弟のメタメタぶりは素晴らしく、チームは連勝につぐ連勝。血をみてファンは熱狂した。
そんなある日、レジは現オーナーを訪ねる。チームの今後につき話し合うためだ。連勝のチームなのだから、何んとか未来は明るそうだ。しかし、オーナーが、今までチームを持っていたのは、税金対策のためだった。黒字のチームはもういらない。
その夜、優勝決戦が開始された。最後の試合こそクリーンに戦おうぜと提案。でも相手チームは悪ばかりだ。再び血の世界。チーフスはしかしクリーン精神を守る。ブーブーいう観客。と、突然ネットがリングせましとあるパフォーマンスを始める。

(鑑賞)
主演ポール・ニューマン、監督ジョージ・ロイ・ヒルと来たら、「明日に向って撃て!」「スティング」
の名コンビですから、ユーモアあふれるスポーツ映画の名作を期待しますが、
意外や、スポーツ根性モノの痛快作ではありません。

ま、いわばアイスホッケー・コメディといった風でしょうか?
クリーンなイメージのポール・ニューマンもさえない男であり、困難だらけにさいなまれている
というヒーローではない男を演じており味があります。

日本ではあまりなじみの薄いアイス・ホッケーですが、
氷上の格闘技といわれるとおり、当たりなんかはすごいですよね。
でも映画はそういうすごさなんかはまったく無視して、描こうとはしません。

ただただ、ラフゲームで人気を得、勝ち続けるチームと歓喜する観客を描くだけです。
そこにクールな目が働き、シニカルな笑いがかもし出されるというひねられて映画なんです。

ラストシーンのネットのパフォーマンスが痛快なのは、社会に振り回されるだけの
小市民のささやかな抵抗として、描かれるものですから、喝采モノだったのでしょう。

アメリカってこういう映画も作れ、評価され、当たるんだという例ですね。
シリーズはカタチを変えて3作目まで作られました。 ★★★★



【裸の島】


1960年日本映画6位 近代映画社 98分
監督・脚本=新藤兼人、撮影=黒田清巳、音楽=林光
主演=乙羽信子、殿山泰司、田中伸二、堀本正紀

(ストーリー)
周囲約五〇〇メートルの瀬戸内海の一孤島。この島に中年の夫婦と二人の子供が生活している。孤島の土地はやせているが、夫婦の懸命な努力で、なぎさから頂上まで耕されている。春は麦をとり、夏はさつま芋をとって暮す生活である。
島には水がない。畑へやる水も飲む水も、遥るかにみえる大きな島からテンマ船でタゴに入れて運ぶのだ。夫婦の仕事の大半は、この水を運ぶ労力に費いやされた。子供は二人、上が太郎、下が次郎、太郎は小学校の二年生で、大きな島まで通っている。
ある日、子供たちが一匹の大き鯛を釣りあげた。夫婦は子供を連れて、遠く離れた町へ巡航船に乗っていく。鯛を金にかえて日用品を買うのだ。暑い日の午後、突然太郎が発病した。医者を呼びに行くが、医者は不在だった。
夫婦はいつもと同じように水を運ぶ。泣いても叫んでも、この土の上に生きてゆかねばならないのだ。

(鑑賞)
音楽と、自然の音、歌、笑い声、泣き声、これだけでセリフは一言もない映画です。
そりゃ退屈でしょう?と案じなさるな、98分を一気に見せる演出力はすごいですよ。
半分ぐらいを、島の畑の坂道を水を運ぶシーンで使っているようなほど、そのシーンが多いです。
その繰り返し、そして、外で飯を焚き、ドラム缶の風呂につかる、その単純なことの繰り返しが
人間の本来の営みなんだと感じられるように作られています。
だから力強いんです。人間って強いけど、人は人なしでは生きていけないんだと感じます。

経営危機にあった近代映画協会(新藤監督の独立プロ)の解散記念作品にと、
キャスト4人・スタッフ11人、500万円の低予算で製作されました。
1961年にモスクワ国際映画祭グランプリを始め、数々の国際映画祭で受賞、
世界60カ国以上で上映され、興行的に成功、近代映画協会は解散を免れました。
日本ではロードショー公開されず、幻の名作としてソフトで見る機会しかないほどです。

新藤監督はこの後も、社会派を貫きますが、先年99歳の遺作「一枚のハガキ」で
キネマ旬報日本映画1位を取って、翌年100歳で人生の幕を閉じます。
どの作品にも、戦争・広島・人間の性と生というテーマが一貫しており、気骨のある作品です。

ご冥福をお祈りいたします。  ★★★★