一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

昭和の映画レビュー 「ぼんち」「陸軍中野学校」「遊び」

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★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★・・・一見の価値あり
★★・・・悪くはないけれど・・ 
★・・・私は薦めない 
☆・・・おまけ

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。

【ぼんち】


1960年 大映作品、104分、監督・脚本=市川崑、脚本=和田夏十
主演=市川雷蔵、若尾文子、中村玉緒、山田五十鈴、草笛光子

(ストーリー)
大阪で四代続いた足袋問屋の河内屋。四代目の喜兵衛は婿養子であり、
店は実質的にその妻の勢以と、その母のきのが支配していた。
五代目で一人息子の喜久治は、妻の弘子を母と祖母に追い出され、花街に足を向けるようになった。
父が死に、河内屋の若旦那となった喜久治は金にものを言わせ芸者のぽん太、
幾子、女給の比佐子など次々と妾を作っていく。やがて戦争が始まり、
河内屋も蔵を一つ残すだけで全焼してしまった。

(感想)
市川雷蔵さんは、この前作「炎上」までは時代劇の大スターでした。
いわずと知れた「眠狂四郎」や、「忍びの者」ほか、「濡れ髪」シリーズなどの
大映の看板スターで、勝新太郎とどちらかの主演映画がいつもかかっているという多忙な
生活を送っていた中、ベスト10などには関係のないような娯楽作を量産していた中で
めぐり合った市川崑監督との2度目のコンビです。

原作は山崎豊子さんの「ぼんち」です。
大阪の老舗のぼんぼんが、ぼんちになるのでの30数年間を描く文芸ものです。
原作は読んでいませんが、しきたりに縛られまくりのぼんぼんの翻弄される運命のような流れです。
それを見事に陰湿でなく切り取ったのが、市川監督と夫人の和田夏十さんの脚本、そして
雷蔵さんの軽妙な演技です。

女優陣がすごいんですわ。
上に挙げた人たち以外にも、京マチ子さんや、淡路恵子さんらも出ていて、全員色の違う
女を見事に演じて、演技力と演出力を感じさせます。

女好きのぼんぼんというと増村監督の「好色一代男」ともかぶる役ですが、
ずっと遍歴を続けていくその作品に対して、本作では、回想形式をとり、
しきたりと女に振り回させながら、成長していく「ぼんち」がたくましく、また哀れでもあります。

★★★★

【陸軍中野学校】


1966年、大映作品 95分 監督=増村保造、脚本=星川清司
出演=市川雷蔵、加藤大介、小川真由美、待田京介

(ストーリー)
1938年10月、三好次郎陸軍少尉は陸軍省に出頭せよとの極秘命令を受け、母と許嫁の雪子には出張と偽って東京に向かう。靖国神社近くのバラックには18人の若い陸軍少尉が集められていた。彼らの前に現れた上官は、1年間のスパイ教育と軍服の着用や軍隊用語の使用の禁止を命じる。

参謀本部とは違う世間離れしていない優秀なスパイを養成すべく、陸軍予備士官学校出身者である彼らを集め、柔道や航空機の操縦、さらに大学教授を招いての政治学の講義にいそしんでいった。 諜報において必要な技術 - 変装、ダンス、更に名の知れた金庫破りによる窃盗術や生理学者による女の肉体を喜ばせる方法までもが教授され、サラリーマンの団体を装った遊郭での実習まで行なわれた。一方、音信不通の三好を探していた雪子は、勤め先であるベントリイ商会の店主ラルフの勧めで参謀本部のタイピストになっていた。

過酷な訓練で自殺者を出しながらも1年間の訓練を終えた彼らに卒業試験として与えられたのは、英国領事館の外交電信暗号コードブックの内容入手であった。出入りの中国人コックを買収して領事館に侵入し、コードブックを撮影して見事内容入手に成功した彼らであったが、コードブックの内容はすぐに変更されてしまった。参謀本部は、作戦に失敗した中野学校の存在に苦言を呈する。

三好らは、参謀本部から情報が漏れたのではないかと感じ、参謀本部を訪れるが、そこで雪子の姿を見る。雪子が参謀本部にいることを不審に思った三好は、雪子がラルフと紙片のやりとりをしているのを目撃する。引ったくりを装って雪子から鞄を奪った三好は、その紙片から雪子が英国諜報機関の手先であることを知り、前田大尉から機密が漏れたことを確信する。ある晩、三好は雪子の元を訪れ、ホテルに誘うが・・・

(感想)
雷蔵さんつながりで見ましたよ。
雷蔵さんのシリーズ映画で、見ていない「陸軍中野学校」は、日本のスパイものはくだらない映画だろう、と思い込んでいたため今まで手を出さなかったジャンルでした。モノクロというのもあったかもしれません。

ところが、長い映画ではないにしろ、行き着く閑なく、冗長になりそうな部分をできるだけ廃し、
クールな映画に仕上げています。さすがイタリア帰りの増村監督です。

実在した陸軍中野学校を娯楽映画として甦らせたのは、当時の企画としては斬新だったのでしょう。
スパイの訓練シーンなどに、007の影響も見て取れます。007の方が先なんですよ。
もう「007は殺しの番号」「007/危機一発」「007/ゴールドフィンガー」は公開されていましたからね。
あと、「忍びの者」シリーズの影響もあるのかな?
影で生きる男たちという意味では。

2作目からタッチが変わっているとききます。
戦争の大陸の中で暗躍するスパイものになっているだろうと想像する中、
1作めの、小川世由美が女スパイになるまでの過程のストーリーの巧みさなど
クールな雷蔵の魅力を残してくれていることを期待しつつ、2作目以降を見て行きたいですね。
★★★

【遊び】


1971年 大映作品、90分 監督=増村保造、脚本=今子正義+伊藤昌洋
出演=関根恵子、大門正明、杉山とく子、根岸明美、内田朝雄

(ストーリー)
野坂昭如の『心中弁天島』をもとに今子正義と伊藤昌洋が執筆した脚本を、
増村保造が潤色・監督した青春映画。
ダンプの運転手だった父が死に、造花の内職をする母と病気の妹を抱え、
十六歳の少女は町工場で働いている。受け取った給料はそのまま家に送り、
彼女は休みの日も寮に閉じこもっていた。
ある日、かつて工場で働いていたヨシ子がやってくる。
今はキャバレーのホステスをしているヨシ子は店のマネージャーを伴っていて、
ホステスの生活を話して聞かせるのだった。少女はヨシ子に会うため町に出て、
電話帳を調べているときに、背の高い少年に声をかけられた。
少年はヤクザの使い走りのようなことをしているチンピラだったが、
やがて純真な少女に心を惹かれていく。

(感想)
増村保造監督つながりです。
デビュー作「くちづけ」から、増村監督の作品は、体制に負けず地に這ってでも生きる女の
映画が多いですが、本作も「くちづけ」や晩年の傑作「曽根崎心中」のように
男女のセリフで進めていく、会話式激論映画であります。

関根恵子さんは、今では高橋恵子さんですが、貧乏で無知だが
純真な女の子を演じます。
増村監督の演技指導は、激しい女が基本なんでしょうね。
情念に対してですが。
「遊び」は、原作のとおり心中ものです。
ラストシーンは川から、壊れたボートを泳いで押し進む二人が笑いながら
海へ出るシーンで終わりますから、ハッピーエンドになる可能性もありますが
二人の共に生きる場所は、海の向こうにしかない、というエンディングのように思えます。
増村映画ますます目が離せません。
★★★