一語一映Ⅲ

高知市の美容室リグレッタの八木勝二が、映画や本のこと、ランチなど綴ります。

キネマ旬報ベストテン鑑賞レビュー 「運動靴と赤い金魚」「東京物語」

★★★★★・・・なにを置いてもレンタル店へ走ろう ←新設しました
★★★★・・・絶対オススメ 
★★★・・・一見の価値あり
★★・・・悪くはないけれど・・ 
★・・・私は薦めない 
☆・・・おまけ

※本編の内容に触れる個所がありますから、観られていない方は、ご注意ください。


【運動靴と赤い金魚】


1999年外国映画第3位、 1997年 イラン作品 88分
監督・脚本=マジッド・マジディ、主演=アシル・ナージ、ミル=ファロク・ハシェミアン、ハバレ・セッデキ

(ストーリー)
イランの貧しい家で暮らす少年アリは、妹ザーラの靴を修理してもらった帰りにその靴を失くしてしまう。
新たに靴を買う金もない親に知れるのを恐れた彼は、失くしたことを親に告げぬようザーラに頼み、
兄妹はアリの運動靴を2人で共有しなければならなくなった。
朝はザーラが運動靴を履いて登校し、昼はアリがサンダルで学校の近くまで行き、
下校途中のザーラと互いの靴を交換して学校へ行く毎日。そんなある日、
ザーラは学校で自分の靴を履いた下級生を見つける。

(感想)
映画館で見たときは、感動で震えが止まらなかった。それほど心からしびれた映画です。
東京のミニシアターで見ました。どうして観たのかな?短いし、メジャーでないイラン映画だし。
そうだ、テレビの「お勧め映画」でやっていたんだ。それで、同然東京行きがあって
上映している映画館を探して行ったのでした。

ファーストシーンの靴を直すアップから、ラストシーンまで締め付けられるような気持ちと
貧しさに耐え、それを明るく跳ね飛ばそうとする兄妹がけなげなんです。

イランにはいろいろ規制があるらしく名作というのはほぼ子どもを扱った映画です。
貧しい階層の家の子どもたちの日常を描きながら、這い上がろうとする子どもたちを見せます。
反対に親たちは子どもには厳格なのですが、貧乏から抜け出そうとしている感じには見られません。

運動靴は欲しいもの、金魚は自分の気持ちを分かってくれて、分け隔てしないもの。
そんな素朴な日本のタイトルがとても素敵です。
アリが、マラソン大会の商品3位の運動靴がほしくて、3位になろうと走るんですが、
うまくいかなくて・・・。でもラストにささやかな幸せが待っています。
★★★★★



【東京物語】


1953年日本映画第2位 松竹作品 136分
監督・脚本=小津安二郎、主演=笠智衆、東山千栄子、原 節子 

(ストーリー)
尾道に暮らす周吉とその妻のとみが東京に出掛ける。
東京に暮らす子供たちの家を久方振りに訪ねるのだ。
しかし、長男の幸一も長女の志げも毎日仕事が忙しくて両親をかまってやれない。
寂しい思いをする2人を慰めたのが、戦死した次男の妻の紀子だった。
紀子はわざわざ仕事を休んで、2人を東京名所の観光に連れて行く。
周吉ととみは、子供たちからはあまり温かく接してもらえなかったが
それでも満足した表情を見せて尾道へ帰った。
ところが、両親が帰郷して数日もしないうちに、
とみが危篤状態であるとの電報が子供たちの元に届いた。
子供たちが尾道の実家に到着した翌日の未明に、とみは死去した。
とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子に形見の品をよこすよう催促する。
紀子以外の子供たちは、葬儀が終わるとそそくさと帰って行った。京子は憤慨するが、
紀子は義兄姉をかばい若い京子を静かに諭す。紀子が東京に帰る前に、
周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。
がらんとした部屋で一人、周吉は静かな尾道の海を眺めるのだった。

(感想)
日本映画でも、オールタイムベストテンで「七人の侍」「浮雲」と1位を常に争う作品です。
男性を躍動的に描く巨匠・黒澤明監督と、女性映画の細かな描写が素晴らしい成瀬巳喜男監督には
前から一目置いていましたが、大学時代に代表作「麦秋」「晩春」「秋刀魚の味」と見たものの
テンポののろいホームドラマだな、何にもドラマチックなことは起こらないし、どこがすごいのかしら?
と正直思って居ました。

実は今回初めてだったんです。山田洋次監督がオマージュをささげた「東京家族」を見たためです。
その原点の作品を見てみたくなったのです。

小津監督独特の間があり、テンポに乗るまではこの映画も時間がかかりました。
東京へ行くまでの時間が長く感じること【笑】。

笠智衆さんが70歳の老父の役を見事に演じていますが、
このとき御歳49歳だったというのにも驚きです。
じっくり見てみたら、無駄なものが何もない。
そのカットひとつなくても、映画が輝きをうせてしまう、という経験をしました。
今見てよかったです。若い頃だと分かりませんでした。小津さんの頑固さやこだわりが。

個人的に一番好きなシーンは熱海の海岸での二人の会話のシーンです。
「鸚鵡返しのように」繰り返される夫婦の会話に、長年の年輪を感じさせる名シーンです。
ほかの代表作も、この機に再見してみようと思います。
★★★★★